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2014-10-28 [道徳の教科化]

【全教談話】
「道徳に係る教育課程の改善等について(答申)」にあたって
 憲法、子どもの権利条約にもとづく市民道徳を育む教育の実現を


2014年10月28日
全日本教職員組合(全教)
書記長 今谷 賢二


 10月21日に開催された第94回中央教育審議会は、「道徳に係る教育課程の改善等について(答申)」
(以下、「答申」)をとりまとめ、下村文部科学大臣に提出しました。


1.「答申」は、2013年2月の教育再生実行会議の第一次提言を受け、中教審で検討が重ねられ、まとめられたもので、「道徳教育の使命」は、「人格の基盤」となる「道徳性」を育てることにあり、道徳教育は「教育の中核をなすべきもの」としました。こうした位置づけにもとづいて、


(1)現行の道徳の時間を「特別の教科 道徳」(仮称)として、その目標、内容、教材や評価、指導体制のあり方など全般的な見直しをすること、


(2)「特別の教科 道徳」(仮称)を「要」として学校の教育活動全体を通じてより確実に展開することを目的に教育課程を「改善」するとしました。


 そのために、「『特別の教科 道徳』(仮称)においては、道徳的諸価値を正面から取り上げて扱うとし、
(1)学校教育法施行規則を「改正」して教科に位置づけること、
(2)検定教科書を使用すること、
(3)数値での評価はしないが、記述式等での評価をおこない、指導要録にも評価欄を新設することとし、
教員養成や教員免許の「改善」方向も打ち出しました。
 一方、道徳的実践の中心的な学習の場として、特別活動を位置づけ、児童会や生徒会活動をはじめ、子どもたちの自主的活動の場として重要な特別活動を「道徳的実践」の中心的な場として体験活動や実地経験をさせるものとなっています。
 また、「家庭や地域との連携・協力が不可欠」「地域において親子で道徳について学ぶことのできる機会を設ける」など家庭教育にいっそう踏み込むとともに、地域での道徳教育を入れ込むなど社会教育まで動員して国家が考える道徳を押しつけようとするもので、憲法の保障する良心の自由、思想信条の自由などに反し、「国民精神総動員」をねらうものとなっています。
 さらに、現行では道徳の時間が学習指導要領に設定されていない幼稚園や高等学校、特別支援学校でも道徳教育を「充実」するとして、高校では新科目の新設も含めて検討することなどを提言しました。


2.安倍内閣は、「戦争する国」「世界で一番企業が活動しやすい国」を支える「人材」=自己責任を前提に体制に奉仕する「人材」を育成するために、安倍内閣が考える「道徳性」をより主体的に受け入れ、実践する「人格の完成」をめざしています。
 そのために、
(1)改悪教育基本法第2 条の教育の目標をより徹底して子どもたちに押しつけること、
(2)「道徳」の指導を内容、指導計画、指導方法、評価、学校の推進体制まで緻密化して、徹底することが今回の「答申」のねらいです。
 それは、最終段階で「自国の伝統や文化への深い理解」や「社会を形成する一員としての主体的な生き方に関わる」など、より内心の自由を蹂躙するとともに国家主義的なものとなったことにもあらわれています。とりわけ、高校における道徳教育について、「国家及び社会の責任ある一員として必要な教養や行動規範などを身に付けていく」という表現が加わったことで道徳の教科化の目的が「戦争する国」の人材づくりのためであることがより明確になっています。

 現に、都立高校で自衛隊での宿泊防災訓練や文科省の奨学金をめぐる有識者会議で財界関係者から「防衛省などに頼み、一年か二年かインターンシップ(就業体験)をやってもらえば就職は良くなる」との発言が出てくるなど、集団的自衛権の行使容認などとともに自衛隊と学校との関係を深めようとする動向が強まっています。


3.さらに、「答申」はそのねらいを徹底するために学校の指導体制や指導計画、研修、評価のあり方まで微に入り細に入り具体化することを求め、学校長などのトップダウンで押しつけようとしています。このことは、教育課程の編成は学校で行うとしている現行の学習指導要領に反すると同時に、学校現場を「道徳教育」でがんじがらめにし、教職員の自主性や創意ある豊かな実践を失わせ、延いて
は子どもたちをマインドコントロールすることにつながるものです。
 「答申」は、こうした批判を想定して、「道徳教育の本来の使命に鑑みれば、特定の価値観を押し付けたり、主体性をもたず言われるままに行動するよう指導したりすることは、道徳教育が目指す方向の対極にあるものと言わなければならない」としています。しかし、学習指導要領にもとづいて、検定教科書が作成され、その使用が義務づけられることになれば、特定の価値観を教え込むことになるのは明らかです。
 また、研修や研究授業、パフォーマンス評価やポートフォリオ評価などが押しつけられ、教職員はいっそう多忙で長時間労働を強いられることにつながります。子どもたちに向き合う時間がいっそう削られることにもなります。


4.本来、教育は人類が積み上げてきた到達点に立って、平和や民主主義、人権の尊重、人間らしい連帯にあふれた社会の形成などを実現するための人格を育むことにあります。そのためには、大津のいじめ問題での第三者委員会の調査報告においても、「道徳教育や命の教育の限界についても認識を持ち、むしろ学校の現場で教員が一丸となった様々な創造的な実践こそが必要なのではないか」と指摘しているように、自然や社会に対する科学的認識を育むとともに、自主活動や自治的活動などを通じた学びが保障されなければなりません。
 しかし、「答申」が示す方向は、これらとは正反対のものであり、子どもは成長・発達の主体であり、幸福追求や思想・信条の自由などの権利の主体であるとする憲法や子どもの権利条約の精神に反するものです。


5.今後、中教審において具体化がすすめられ、早ければ2018 年度から新しい学習指導要領と教科書にもとづく「道徳の教科化」が実施されると報道されています。また、検定教科書ができるまでは「私たちの道徳」で代替することが議論されており、前倒しでの実施の可能性もあります。
 全教は、特定の価値観を子どもたちに押しつけ、子どもたちを国や財界の都合のいい「人材」にしたてあげ、子どもたちの未来を奪う「道徳の教科化」に反対するとともに、平和で民主的な社会、人間らしい連帯にあふれた社会の形成をめざす市民道徳を育む教育を、対話・懇談・学習などを通じて保護者、国民ととともにすすめることをめざし全力をあげるものです。同時に、子どもたちを戦場に送らないと願うすべての人々と手をたずさえ、「戦争する国」を許さないとりくみに全力をあげるものです。

                                 以 上
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